小さなお店の販売戦略〜提供価値を整理する その②
ブログをご覧の皆さま、こんにちは!
中小企業診断士の米澤智子です。
公的機関の職員として働く、企業内診断士の目線から
経営者の皆様に役立つ情報をお届けいたします。
前回の「小さなお店の販売戦略〜提供価値を整理するその①」では、
各種販促はあくまでも「ツール」であり、
その中で訴える「あなたの会社の提供価値」が重要である点を解説しました。
しかし、提供価値が重要である点はわかっていても
なかなか言葉に変換することは難しいもの。
今回は、「提供価値を言語化する」ための視点について解説します。
1.他事業を営むカフェ店主
50代の女性が、まちのコミュニティ形成のちからになりたいという思いを持ち、
都内商店街に念願のカフェを開業しました。
ターゲットは、カフェの近隣に住む主婦層(40代~高齢者まで)です。
店主の女性は非常にやる気があり、様々な試みをしていました。
- カフェ事業
- お弁当事業
- 和体験事業
長年茶道を修行しているという店主の強みをいかした、着物の着付けや抹茶体験など - スペース貸し
起業家のセミナーや本の出版イベントなど
カフェが立地する場所は、若い起業家が集まる街です。
店主はそのことを知らなかったので、スペース貸しは当初なかったのですが、
顧客から依頼をうけてはじめました。
お店を貸切にする他、求められれば料理も追加料金で出します。
利益率が最も高いので、店主は延ばしたいと思っています。
他、近所の高齢の女性たちにお店を手伝ってもらってもらうことで、
シニア層の雇用創出にもつなげていました。
やる気があり様々な事業に手を付けるのはよいのですが、
店主が1人で回すには限界がきていました。
特に、カフェ事業は利益率が低い割に、
日々の仕入れや調理に時間が取られていることが悩みです。
店主自身も「いろいろ手をだしていて、どのようなカフェにしたいかがわからなくなっている」
という様子だったため、開業1年を機にコンセプトの見直しを図ることにしました。
2.質問を繰り返し、お店の「提供価値」を整理する
派遣した専門家の先生とともに、まずアイディアだしからはじめました。
- 店主とお店の強み
まず、店主とお店の強みを、思いついたものから言語化します。
・若葉がベランダから見えるので癒やされる
・スペース貸しのイベントでは、起業家たちのつながりが生まれている
・新たな価値や思いが生まれている
・茶道を始めとした日本文化に詳しい
・外国人が日本文化に親しむきっかけをつくっている
・・・などです。
このときは店主と先生で会話をしているだけでしたが、
複数人で行う場合はポストイット等で整理していくと、
参加者が思っている考えが可視化されやすくなります。 - 開業した理由を思い出す
次に、1年前の開業時の思いを、もう一度思い出してもらいます。店主は、日本の地域コミュニティが希薄化するなかで、
人のつながりを強めたいという思いがありました。
広げている事業も、それぞれバラバラのように見えますが、
「人のつながりを強めたい」という、店主が元来もっている強い気持ちから
始めたものであることがわかりました。 - お客様はどんな状態になってもらいたいか
お店にリピートしているお客様は、なぜこのカフェを使ってくれているのか、
逆の気持ちになって考えてもらいました。・今まで会えなかった人と出会うことができる
・新たな考えや価値観を得ることができるといった意見がでました。近隣のベンチャー企業が企画したセミナー等がリピートが高く、
また顧客の満足度も高いことがわかりました。 - コンセプトとして明文化、事業運営方法の見直し
このような会話を通して店主の価値観が整理された結果、
新たなコンセプトは「新たな出会いと自分に気がつくカフェ」になりました。
そこで、顧客数に変動があり、仕入れと調理に時間が取られるカフェ事業は、
近隣の高齢の女性たちにメインでやってもらうようにしました。
新たにうまれた余裕時間で、店主は利益率が高く、
よりコンセプトにマッチしたスペース貸し事業と
日本文化体験事業に注力することになりました。
販促についても、今まではカフェを前面に出したチラシでしたが、
イベント貸しを中心としたものに変更し、近隣のベンチャー企業に配布しました。
その結果、スペース貸しや日本文化体験イベントが順調に増え、
売上と利益率を向上させています。
このカフェの場合は、コンセプトを見直し店主が注力すべき事業を明確にすることで、
より利益率につながる販促活動をすることができました。
3.客観的視点と主観的視点に分けて考える
店舗のコンセプトを考える上で、大事にしたい視点は「主観と客観」です。
主観は、店主の思いです。起業家は熱い想いを持ってお店を開いているので、
この思いがより強くなる傾向があります。
もう一つ重視したい視点は、客観です。
お客様はなんでこの店を選んでくれるのでしょうか。
このお店に何が求められているのでしょうか。
わからなければ、お客様に聞いてみるのも手です。
この主観と客観が重なる点が、店舗が目指すべきコンセプトになります。
今回のカフェの事例でいえば、①と②が主観、③が客観の視点です。
特に、②の開業した理由を考えることは、自分自身が事業を立ち上げた原点に立ち返るため、
考えがより整理される店主さんが多いと感じています。コンセプトを見直す際、私は必ず伺う質問です。
2回に渡り、「小さなお店の販売戦略〜提供価値を整理する」についてお送りしました。
お店の提供価値がわからない、という方は、ぜひ中小企業診断士など、外部の視点も取り入れながら考えてみてください。